手続き記憶とハノイの塔の実施と解釈方法
目次
手続き記憶とは?
端的に説明すると「身体で覚える」といわれる技能を指します。例えば、1mm以下の単位にて陶器の厚みを調整する陶芸家などの職人技術も手続き記憶に属すると思われます。
私達に身近なところでは、何年かぶりに自転車に乗ったとしても、転ばずに上手くバランスを取りながらペダルをこいで進むこと、これも手続き記憶によるものと言えます。
記憶の分類に関しては以下の記事をご参照下さい。
ハノイの塔とは?
ハノイの塔とは昔からあるパズルゲームのような物です。ゲームの目的は、3本の杭の右側に通してある大中小の3つの円盤を左側に最小手(3枚の場合は7手が最小)で移すことです。
ゲームのルールは3つだけです。①円盤は1枚づづしか動かせない。②小さい円盤の上に大きい円盤を重ねることが出来ない(大→中→小)。③円盤は棒以外の場所に置いてはならないとなります。
最少の円盤数は3枚ですが、枚数が増えるにつれて難易度は飛躍的に上がります。因みに、インドの神話で64枚の円盤が出てきますが、1枚を1秒で動かしたとしても、6000億年弱かかるそうです…。気が遠くなるような話しですね。
ハノイの塔の解釈
手続き記憶の評価としてハノイの塔を用いる場合は、手数のチェックを複数回にわたって行う必要があります。
手続き記憶に障害がない方が行った場合は、次第に手数が少なくなり最少手で安定するようになります。実際に自分で試してみると分かるんですが、始めは考えながら円盤を動かしていますが、次第に考えなくても手が進むようになります。
逆に手続き記憶に障害がある場合は、手数が安定せずにアップダウンの目立つ傾向にあります。
残念ながら、ハノイの塔に関して標準化(障害の有無を判断するライン)された評価方法は確認出来ていません。評価結果に関しては、あくまでも目安として利用する必要がありそうですね。
手続き記憶の障害について
手続き記憶障害について考える為には、もう少し詳しく手続き記憶について考える必要があると思います。私なりの解釈を以下で説明します。
冒頭で手続き記憶とは「身体で覚える」技能と説明しました。これは言い換えると「技能の習熟」とも言えるかと思います。例えば、自転車を例に考えてみましょう。
まだ自転車に乗り慣れていない時期であれば、ハンドルを握って、サドルに跨って、ペダルに足を乗せて、地面を足で蹴って、ペダルをこぐという動作をそれぞれ考えながら(意識しながら)自転車に乗っていませんでしたか?
それが、乗り慣れてくると、一つ一つの動作としては意識せずに一連の動作として自転車に乗ることが出来ていませんでしたか?
つまり、手続き記憶に障害を受けると、日常生活上の動作全般が時間を要する、間違いが増えるなど非効率的になると言えます。
手続き記憶の活用法
一般的にリハビリを効果的に行う為には、患者さん自身がリハビリ内容や目的を良く理解することが必要とされています。この「良く理解する」為には陳述記憶(自身の出来事に関する記憶)が重要となります。
ただ、リハビリを必要とする患者さんの場合、多くのケースで陳述記憶に障害を負っている現実があります。
しかし、陳述記憶に障害を負っていても、手続き記憶が残存している場合には、リハビリ(動作)の繰り返しにて効果が出せる可能性があります。
一見、リハビリが難しいそうだなと思う患者さんでも、手続き記憶が残存していれば介入の糸口が見つかるかもしれませんね。
手続き記憶が足を引っ張る?
説明してきたように、手続き記憶は日常生活を快適に送るうえで重要な能力であると言えます。ただ、状況によっては、手続き記憶が足を引っ張る(問題を起こす)ケースがあります。
それは、上記と同様に陳述記憶が障害された状態で手続き記憶が残存しているケースです。この場合、日常生活での失敗に関して、出来事は忘れてしまっても、失敗体験(動作)は身体が覚えてしまっている状況とも言えます。
結果、過去の失敗体験(記憶)を活かして、失敗を回避することが出来ないうえに、手続き記憶が失敗動作を繰り返そうとする難しい状況になります。これを回避する方法として「誤りなし学習(エラーレスラーニング)」なるものがあります。
誤りなし学習に関しては、以下の記事をご参照下さい。
つまり、陳述記憶×で手続き記憶〇の状態の場合、メリットとデメリット両面が存在することに留意する必要があります。
まとめ
- 手続き記憶とは「身体で覚える」といわれる技能
- ハノイの塔は手続き記憶の評価が行える
- ハノイの塔は複数回実施して成績の推移を評価する
- ハノイの塔の標準化は不明⇒結果は目安とする
- 手続き記憶障害が起こると日常生活動作の効率性が下がる
- 陳述記憶障害があっても手続き記憶が残存していればリハビリ効果がより見込める
- 陳述記憶障害があって手続き記憶が残存していれば「間違い学習」の恐れがある
- 「間違い学習」を防ぐ為には「誤りなし(エラーレス)学習」が効果的
- 陳述記憶×で手続き記憶〇のケースではメリットデメリット双方を認識する